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染めまで堪能できるおりがみの殿堂「お茶の水 おりがみ会館」前編

古くから出版、印刷の街として知られる湯島。紙と縁深いこの地に、おりがみ文化の今を発信する「お茶の水 おりがみ会館」はある。

このおりがみ会館は、伝統工芸としてのおりがみを通して、国内外の親善交流をはかることを目的に作られた。運営するのは、1858年から続く150年もの歴史を持つ老舗染紙店「ゆしまの小林」だ。

6階建の会館内には、おりがみ作品を展示するギャラリースペースはもちろん、職人さんが作業をしているところを見学できる紙染工房、さらにたくさんの種類のおりがみや和紙、書籍が売られているショップや和紙手芸教室も併設されている。

そんな会館の3階、ショップの一画。色とりどりのおりがみや千代紙に囲まれて、おしゃべりしながら次々と作品を繰り出すのは、館長の小林一夫さんだ。くしゃくしゃといい加減に丸めたかに見えた紙が、あっという間に鶴や馬に形を変える。この実演、まるで手品だ。

「おりがみっていうと、きちんと折りすじに合わせて折らなきゃと思う人が多いんだよね。でも本当はそんなに厳密じゃなくていい。大体でいいの、大体で。はさみを使ってもいいし、ちぎったっていいよ。ルールなんてないんだから。

国も年齢も関係なく、紙一枚あれば心が通じるというのがおりがみの魅力。それに、おりがみは教育にもとてもいいんだよ。こうして折る手本を見せながら一緒にやってみるでしょ。自分も同じものを作りたかったら、子どもは説明をジーッと聞いていなくちゃならない。よーく人の話を聞ける子ができあがる、と。ほら見てごらん。いちにの、さん!」(小林さん)

手から生まれた起き上がりこぼしが、かけ声にあわせてひとりでに起き上がった。すかさずギャラリーから歓声が湧く。

はさみを使うことに躊躇しない小林さん。自由な発想が自由な作品を生む

はさみを使うことに躊躇しない小林さん。自由な発想が自由な作品を生む

おりがみは昔から“もてなし”の心を表現するためにも使われてきた

おりがみは昔から“もてなし”の心を表現するためにも使われてきた

おりがみ会館の1階にある展示スペース。作品を見たり、材料を手に入れたりと、おりがみにまつわる情報がたくさん

おりがみ会館の1階にある展示スペース。作品を見たり、材料を手に入れたりと、おりがみにまつわる情報がたくさん

おりがみを手に、小林さんはこうも話してくれた。

おりがみを手に、小林さんはこうも話してくれた。

「おりがみ遊びは、そのものが“文化”。たとえば江戸時代の姉様人形って知っているかな。ちりめん紙で髪を作り、美しい柄の千代紙や布きれで作った衣装をきせた花嫁姿の人形のことだけど、これは遊びながら着物の色合わせや髪の結い方を覚えるためのものでもあったんだ。江戸時代の少女たちは、小さい頃から、おりがみで遊びながらおしゃれのイロハや色合わせのセンスを身に着けていったんだね。

それから千代紙ってのは、折るために集めるというよりは、コレクション自体が目的のもの。きれいな模様を眺めては楽しむために。千代紙の柄から着物の柄のデザインが生まれたりもしたんだ。おりがみは、女の子の文化なんだね」(小林さん)

遠い時代の彼女らが、おしゃれのレッスンも兼ねて興じた遊び??。見知らぬ昔を思い浮かべれば、今だって人はそう変わらないと気づく。

「そもそも遊戯としてのおりがみが出てきたのは江戸のころ。みんなが良く知っている千羽鶴は、江戸時代に魯縞庵義道(ろこうあんぎどう)という桑名のお坊さんが始めたと言われている。今のように誰もが広くやりだしたのは、明治時代に教育で取り入れてからのこと。でもさ、もっとずっと遡って紙が生まれたころから、儀式のためにひと折り、なんてしてたんですよ。そう考えるとおりがみという行為は、途方もない時間をまたいでるものなの」(小林さん)

そんな話の後に立ち寄った会館2階のギャラリーでは、展示を観る目もおのずと真剣に。紙人形や細かに折り込んだ作品が季節ごとに飾られ、訪れた人の目を楽しませてくれる場所。どの作品からも文化を引き継ぎつつ、新鮮な切り口で観る人を喜ばせようとする作り手の気持ちがひしひしと伝わってくる。

「人様に和菓子を出す時、ちょっと折るのだって立派なおりがみ。要するにおりがみとは“もてなしの心”が引き継いできた伝統なんです」(小林さん)

小林さんの言葉が胸中に浮かんでは、静かな時間にまた溶けていく。

Shop information

店名:お茶の水 おりがみ会館(http://www.origamikaikan.co.jp/

住所:〒113-0034 東京都文京区湯島1-7-14

TEL:03-3811-4025

営業時間:9:30~18:00(定休日:日曜・祝日、年末年始・夏季休暇)

photo_yuji imai
text_ chiharu terashima
edit_miwako matsuzaki