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染めまで堪能できるおりがみの殿堂「お茶の水 おりがみ会館」後編

古くから出版、印刷の街として知られる湯島。紙と縁深いこの地に、おりがみ文化の今を発信する「お茶の水 おりがみ会館」はある。

入り口から2階ギャラリー、3階ショップと回って、最後に行き着くのは会館4階。染料の匂いたちこめる、染め紙工房だ。

この会館の運営は、創業150年を誇る老舗染め紙店・ゆしまの小林が受け持つ。本物の職人の働くところを常時見学できるのも、そんな背景あってこそだ。

工房に足を踏み入れると、「シャ、シャ、シャ」という音が張りを含んだ空気に響く。金色のしずくしたたる刷毛を手に、模様入れ作業のまっ只中だった。

「一枚ずつ手で描いていくんです。おおまかな模様はもちろん決まっているけれど、刷毛の運びなんかは職人の手クセによる部分も大きいんですよ」(職人さん)

会館内で見かける紙は、どれも温かな風合い。それはやはり手作業のなせる技なのだと、ここに足を踏み入れて確信した。

「手で刷毛をすべらせる方法の他にも、専用の器具に絵の具をつけてふるう方法や、わざとデコボコしたものを紙の下に敷いて描く方法があります。前者では水滴の飛び散ったような涼しげな模様に、後者ではかすれの混じった質感ある模様に仕上がる。長い染め紙の歴史のなかで、先人たちが工夫してきた積み重ねですね」(職人さん)

工房の壁には固さや原料違いの刷毛がたくさん。模様によって細かく使い分ける

工房の壁には固さや原料違いの刷毛がたくさん。模様によって細かく使い分ける

まばゆいばかりの金色の染料。練って色味を調整していく

まばゆいばかりの金色の染料。練って色味を調整していく

染め終わった紙は一枚ずつ工房の天井に張った縄にひっかけて干す。この日は天井一面が赤色に染まった

染め終わった紙は一枚ずつ工房の天井に張った縄にひっかけて干す。この日は天井一面が赤色に染まった

模様入れから、今度は別の紙の染めに手を移しながら、職人さんはさらに話す。

模様入れは最後の工程だが、その前にも下染めやその準備など、作業段階はいくつもある。さらには商品や状況に応じて、そのつど色の濃淡や刷毛の選定などを調節するのだから、覚えることは星の数ほど。模様入れから、今度は別の紙の染めに手を移しながら、職人さんはさらに話す。

「顔料をすりこぎで擦って粒を均一にし、のりと混ぜて染めの液を作ります。分量などはレシピがあって、僕は70歳過ぎの先輩職人に仕込んでもらいました。今作っているのは赤金(あかきん)という、神社などでよく使われる金色です。紙全体に刷毛で色を行き渡らせるんですが、染めた側から乾いていってしまう。途中で刷毛が進まなくなり、たった一枚が仕上がらず叱られた……なんてことも、最初はありましたね(笑)。個人的に好きな色? ……緑かな。でも染めの緑は、ムラになりやすい難しい色なんです。染めならそうだな、水色や紫がきれいで好き。染めていく時はもう、ただ無心ですよ」(職人さん)

ゆしまの小林は、第二次大戦中に赤紙の染めを担った歴史を持つ。当時の職人たちは、一体どんな思いで手を動かしたことだろう。それを思えばなおさら、彼らが純粋に自らの技を追求できる時代が続いてほしいと願わずにはいられない。

染め上がれば、天井のロープに湿った紙をずらりとぶら下げて干す。「ぶら下がった紙が明るい色だと気分がぱっと軽くなる」と、彼は目尻をゆるめた。早ければ2?3時間で乾く。仕上がった様々な紙を見せてもらった。

「これは染めて樹脂をコートしたもの。こっちは総柄、額に入れて飾ったりします。ムラなく染めるには羊の毛、細かいすじ模様には馬の毛の刷毛。こっちは……」(職人さん)

とめどなくこぼれる言葉が、仕事への熱意を物語る。歴史の影も日向もないまぜになった深い“色”の魅力に、職人たちは染められているのだ。

そんな彼らが丁寧に生み出す、極上の一枚。あなたにもぜひ、ここに来て手にとってほしい。

Shop information

店名:お茶の水 おりがみ会館(http://www.origamikaikan.co.jp/

住所:〒113-0034 東京都文京区湯島1-7-14

TEL:03-3811-4025

営業時間:9:30~18:00 (定休日:日曜・祝日、年末年始・夏季休暇)

photo_yuji imai
text_ chiharu terashima
edit_miwako matsuzaki