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繊細な伝統美「線香花火」が復活するまで 玩具問屋 山縣商店 取締役会長 山縣常浩×煙火部部長 谷古宇正啓

100年以上の歴史を持つ玩具問屋・山縣商店の山縣常浩さんは、平成10年に国産が絶滅した線香花火を復活させた人物でもある。

「線香花火は、日本が生んだ芸術品。火をつけてから落ちるまでの起承転結、序破急は、まさに人生そのものを表現しています。

線香花火を着火してから玉が落ちるまでの段階には、それぞれ名前がつけられているんですよ。着火した直後に出来る赤い玉は「牡丹」、だんだんと激しくなる火花は「松葉」、火花を長く引く「柳」、そして消える寸前のチカチカは「散り菊」。なんとも詩的で美しいでしょ?細い体に繊細なわびさびをたたえた伝統美をなくしてはいけないという強い思いが私にはありました。

ところが、平成に入ると、中国製品に押されて国産の花火製造会社はどんどん撤退していきます。最後まで頑張っていた八女の隈本煙花店が廃業したのが、1998(平成10)年のこと。もうダメだ……と思っていた時、線香花火への想いを持ち続けていた私に、奇跡のような出会いがありました。

花火製造をしている知り合いの奥様の実家が、信州で最も生産量の多かった北上煙火店で、嫁入り道具に線香花火の火薬調合レシピとそれを包む和紙を持参していたことがわかったのです。

早速私は線香花火の復活に向けて行動を開始。彼女の嫁入り道具を見本に、同じものが作れそうな材料を全国で探し求め、火薬を調達したり調合したりの試行錯誤の日々を過ごしました。そして2年の歳月を費やした頃、ついに理想的な純国産の線香花火を復活させることができたのです。

それが、大江戸線開通とともに売り出した「大江戸牡丹」。これからも、たった1グラムに満たない火薬が生み出す日本ならではの芸術品を守っていけたら」(山縣さん)

打ち上げる機会が少ない――平成の花火師事情

山縣さんたちが復活させた大江戸牡丹は、大人が楽しめる線香花火として大きな話題に。純国産の線香花火が今も楽しめるのは、こうした努力のおかげなのだ。

一方、山縣商店では、線香花火などの玩具花火のほか、打ち上げ花火や花火師派遣も行っている。その担当が花火師でもある谷古宇正啓さんだ。

「花火ってね、“奇跡の塊”なんです。まず火薬の調合をするわけですが、薬剤を混ぜる比率によって色味が微妙に変化します。打ち上げてから最初に『ドン』と開かせる火薬の量や強さによっても、タイミングや広がり方が違う。火薬の外側に貼る紙の張りの強弱は、花火の広がりの大きさも左右するわけです。すべての段階を計算しながら作っていくのが花火師の仕事。これはね、本当に奇跡そのものですよ。すべてがうまくいく納得の一弾を上げられるのは、1年に一回あるかないかではないでしょう」(谷古宇さん)

花火師になるには、大きくわけて、[1]花火を作れる免許、[2]取り扱える免許、[3]打ち上げられる免許の3種類がある。どれか一つでも免許を持っていれば“花火師”を名乗れるというわけだ。しかも、[3]打ち上げられる免許は、2時間ほどの講習を受ければOKだそう。

「実際の花火大会に関わっている花火会社の社員は、どこも1割程度。ほとんどは、大会のために手伝いに来てもらう臨時花火師さんたちです。大体知りづてで声をかけ、毎年来てもらうのが通例ですね。

私自身も学生の時から手伝っていました。おもちゃ花火を買いに来た時に声をかけていただいて、22歳頃から花火大会でセッティングなどを手伝う“打ち子”として参加するようになったんです。その縁で8年前にこの会社に就職し、本格的に花火の道へ進むことになりました」(谷古宇さん)

“打ち子”とは本来、花火を打ち上げる役目のこと。ところが、電化が進んだ最近では、経験の浅い若手が花火を打ち上げることが出来る機会はほとんどないのが現状だ。

「そんな打ち子たちが好きに演出できる機会を作りたくて、8年ほど前から多摩川での花火大会を主催しています。若手たちのグループが好きなプログラムを組んで花火をセットし、自分たちで打ち上げるというもの。毎年アットホームな雰囲気で開催していて、学生や社会人のグループが多く参加しています。

打つのにももちろん上手い下手がありますよ。せっかちな性格の人は、打ち上げるタイミングもせっかちになったりしてね(笑)。

若手が楽しめて、さらに打ち子の実技訓練を兼ねているので技術の底上げもできる。そんな全国で先駆けて始めたこのイベントを、今後も続けていきたいと思っています」(谷古宇さん)

最後に、花火師をやっていて良かったと思う瞬間について聞いてみた。

「どんな小さな現場でも、花火を上げるとみんな感動してくれるのが何より嬉しいですね。お客さんの拍手をもらえることで、花火師たちはクタクタの極限状態から生き返っています(笑)。花火をより身近に感じてもらえる新しいアイデアを、これからもどんどん打ち上げていけたら」(谷古宇さん)

伝統を受け継ぎながら、現代における花火の可能性を模索する人々。その情熱の結晶が夜空に咲くからこそ、私たちは感動させられるのかもしれない。

真ん中の赤いパッケージが、山縣さんたちの復活させた線香花火「大江戸牡丹」

真ん中の赤いパッケージが、山縣さんたちの復活させた線香花火「大江戸牡丹」

線香花火に着火する時は、花火を平行に持ち、下から垂直に火を点けるとうまくいきやすい

線香花火に着火する時は、花火を平行に持ち、下から垂直に火を点けるとうまくいきやすい

おもちゃ問屋でもある山縣商店には、懐かしいおもちゃもたくさんある

おもちゃ問屋でもある山縣商店には、懐かしいおもちゃもたくさんある

プロフィール

山縣商店

オフィシャルサイト:http://www.hanabiya.co.jp/

photo_naomi kinoshita
text_ miwako matsuzaki
edit_yu koyanagi