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コケ界のキャラクター王は誰だ 『コケはともだち』著者 藤井久子 後編

『コケはともだち』の著者であり、コケ散策を兼ねた散歩や旅行・山登りが大好きな藤井久子さん。適材適所で力強く生きるコケたちを観察しているうちに、それぞれの個性に着目。知れば知るほど人間のキャラクターのように見えてきて、つい話しかけたくなってしまうそう。

そんな藤井さんに、お気に入りのコケを紹介してもらうことにしよう。

ヒノキゴケ
「どのコケも個性があって、どれもそれぞれいいのですが、とにかく美しさで一番なのは“ヒノキゴケ”ですね。たたずまいが美しく、手触りもふさふさの猫のしっぽのように柔らか。京都のお寺などでは美しく育てられていますが、街中で育てようとすると茶色くなって枯れてしまうことがほとんど。山の中でこそ輝くのが特徴です。そのエメラルドのような光沢のある見た目とは裏腹に、“自分不器用ですから”とあくまで“山”という自分の居場所にこだわる姿勢が、謙虚で無口だけれど一本筋が通った高倉健さんのよう。そんなヒノキゴケを見ていると、“あんた、せっかくいい素材持っているのに、もっと前へ出なさいよ”と言いたくなってしまいます」(藤井さん)

ギンゴケ
「都会のコンクリートジャングルで強く生きている身近なコケ。逆境や過酷な状況に追い込まれたほうが燃えるタイプで、乾燥しているほど銀色の輝きを増していきます。コケの中でもとりわけ生命力が強く、道端や側溝、ビルの屋上などで会うことができるでしょう。そのタフなボディとシブい容姿から、周囲のコケから“銀さん”と呼ばれ親しまれているとか、いないとか(笑)。道の片隅から、“今日もしっかりやりな”とビジネスマンたちを励ましてくれているような、勇気づけられる存在です」(藤井さん)

初心者でもコケの世界をディープに楽しめる方法を藤井さんに教えてもらおう。

そのほか、「道を外れたアウトローながら、独自路線を切り開いて見事成功した」動物のフンだけに生えるマルダイゴケや、「常緑樹の葉っぱを住処にして一生を終える、手乗りならぬ“葉乗り”」なカビゴケ、「乾燥時には茎にくっつくようにすぼまっているが、湿ると瞬時に星形に広がり、水の玉をまとまったきらびやかな姿へと変身」するコケ界のスター、エゾスナゴケなどなど、よく知ると強烈なキャラクターを持ったコケがたくさん。何のこともない散歩でも、一度そんなコケのことを知ったなら、もう見過ごせなくなるはずだ。

「コケを楽しむのにまず準備してもらいたいのは、“ルーペ”です。初心者の場合は2~3倍の虫眼鏡から始めるのもいいでしょう。10倍以上のルーペだと、コケの細部の美しさまでよくわかるし、自分が虫サイズになってコケの森に迷い込んだような感覚も味わえます。使い方はまずメガネのように顔との距離を固定してから、徐々にコケに近づいていき、ピントを合わせるのがコツですよ。

今コケ回りで熱いのは、クマムシでしょうか。よくコケで一休みしている微生物ですが、その名の通り、クマのような姿をしてゆっくり動く様子が大人気。キャラクター化されてぬいぐるみなどのグッズが販売されていたり、“クマムシナイト”というイベントに若いクマムシファンが押し寄せたりと、かなりの層の厚さです。コケだけでなく、コケまわりの情報にも詳しくなれるので、楽しみが広がりますよ。

また、観察ノートをつけたり、写真を撮ったり、霧吹きで乾燥したコケに水分を与えて、その変化を見てみるのも面白いでしょう。コケの観察に出かける場所は、東京近郊ならば、箱根美術館の苔庭や高尾山の6号路、鎌倉なども気軽に出かけられるコケの名所ですね。ご近所のコケを探して定点観察するのも面白いと思います。

日本国内だけで約1700種類も生育しているコケですから、新しく出会う楽しみもありますね。山や森、お寺巡りなどをする機会があったら、それにプラスしてコケの世界も味わってみてください。今まで見たことのない世界が広がっていくと思いますよ」(藤井さん)

もうすぐやってくる晩秋は、コケが美しく輝くハイシーズン。すがすがしい気候のなか、ひっそりと、けれどドラマティックに生きるコケの世界を楽しんでみてはいかがだろうか。

山中にひっそり生育するヒノキゴケ。瑞々しく輝く姿が美しい

山中にひっそり生育するヒノキゴケ。瑞々しく輝く姿が美しい

ギンゴケ。富士山の頂上や南極などの過酷な条件下でも生育が確認されている

ギンゴケ。富士山の頂上や南極などの過酷な条件下でも生育が確認されている

茶色くなってしまったコケに霧吹きで水分補給。しばらく待てば、グリーン復活

茶色くなってしまったコケに霧吹きで水分補給。しばらく待てば、グリーン復活

プロフィール

藤井久子

1978年、兵庫県出身。屋久島を訪れたことをきっかけにコケに魅了され、今では日本蘚苔類学会にも参加。著書の『コケはともだち』(2011年、リトルモア刊)は、コケ初心者のバイブルとなっている。編集ライターとしても活躍中。

かわいいコケ ブログ:http://blog.goo.ne.jp/bird0707
リトルモアブックス:http://www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=807

撮影協力

flower&cafe風花http://www.kaza-hana.jp/cafe/

住所:東京都港区南青山3-9-1 アブリム1F

TEL:03-6659-4093

営業時間:Cafe 10:00~18:00、Lunch 11:00~16:00、Bar 19:00~(閉店時刻は要問い合わせ)

photo_nobuyuki sasaki
text_ miwako matsuzaki
edit_yu koyanagi