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震災に負けず、地域で神楽を楽しむ場を守っていく 神楽宿の主 笹山政幸・奈奈子夫妻

 神に奉納するための歌や舞を意味する「神楽(かぐら)」。日本全国各地には、変化に富んだ多様な神楽文化が現在に継承されているのをご存知だろうか。

 巫女が粛々と執り行う巫女神楽、神社の神楽殿で仮面などをつけて舞われる太々神楽、あるいは曲芸を交えて行われる太神楽などを連想する人も多いだろう。さらには、東北の早池峰神楽、奥三河の花祭り、中国地方の石見神楽、九州の高千穂神楽など、全国で行われる個性的な神楽をあげればきりがないほどだ。

 神楽は、神に捧げる神聖な舞。しかし、いったん厳粛な神事が終われば、その後は人も神も入り乱れてのお祭り騒ぎが始まる。神に捧げたお酒をともに飲み、舞手を囃しながら、夜もふけるまでその空間をともに過ごすことが、祭りにとって実はとても大事なことなのだ。

 今回の主役は、岩手県釜石市の箱崎半島白浜で、そんな神楽衆をうけ入れる「神楽宿
をする笹山政幸さん(46)。鵜鳥神楽の神楽宿の文化を継承する笹山さんは、あの東日本大震災で甚大な被害を受けたあとも、なんとかこの神楽宿の文化を守り、広げていくために様々な取り組みを行なっている。

 笹山さんが暮らす地域も含め、東北各地には集落一軒一軒の家を祈祷してまわる"巡業する神楽"の形態が伝承されているという。信仰や祈祷あるいは供養といった宗教的な理由の一方で、雪で閉ざされた東北の冬に出稼ぎのために出張して神楽を舞ったそうだ。"巡業する神楽"は、その晩泊まる宿で盛大に演目を披露するのがならわし。その舞台となるのが神楽宿である。

自粛をしない、神楽宿の意地

神楽宿は、文字通り神楽衆が泊まる宿であり、神楽が上演される舞台であるとともに、集落じゅうの人びとが集まる祝祭空間ともなるため、神楽宿をやるということ自体が集落の中でステータスとなる場合も多い。神楽衆や地域の人たちに食事やお酒をふるまうのも神楽宿の主のつとめだ。

 笹山さんたちが神楽宿に迎える鵜鳥神楽は、岩手県の沿岸部を廻る巡業の神楽。普代村を拠点として、北廻りでは久慈市、南廻りでは釜石市までを一年ごとに廻る。岩手県沿岸部もそのコースに含まれているため、東日本大震災では鵜鳥神楽と神楽宿などがある地域とも甚大な被害をうけてしまった。たとえ神楽が再開できる状況になったとしても、舞う場所がなければできない。そんな厳しい状況のなか、「神楽宿をやる」と手をあげたのが笹山さんだった。

「震災があってすぐの巡業(2012年1月)は大変だったね。家は幸い残ったけれど、向かいの地区の神楽宿は流失。隣の箱崎も浸水して駄目になってしまったわけだから。神楽衆から、『今年は自粛する』という事前連絡が来てはいたものの、うちの神楽宿さえあればその必要はなくなるわけでしょう。今までの巡業の歴史を途絶えさせたくなくて、“震災のために中断”という事態だけは防いでやろうと思ったんだ。隣や向かいの地区の宿の分も含めてうちがやろうと決めた。白浜の宿としての意地かもね。実際あの年は、うちともう1箇所でしかできませんでした」(笹山さん)

鵜鳥神楽の権現様。東北の神楽で獅子は権現様と呼ばれ、神事や儀礼で重要な役割を果たす強い力を持つ存在だ

鵜鳥神楽の権現様。東北の神楽で獅子は権現様と呼ばれ、神事や儀礼で重要な役割を果たす強い力を持つ存在だ

宿では神楽を舞ってくれたお礼に神楽衆にご馳走を振る舞う。神楽衆は感謝し、御祝いの唄を歌う

宿では神楽を舞ってくれたお礼に神楽衆にご馳走を振る舞う。神楽衆は感謝し、御祝いの唄を歌う

神楽前日、地域のおばちゃんたちが神楽宿に集まって、恵比須舞のなかでまく餅をつくる。

神楽前日、地域のおばちゃんたちが神楽宿に集まって、恵比須舞のなかでまく餅をつくる。

プロフィール

「奈奈子祭~夏の陣~」文化芸術による復興推進コンソーシアム

http://bgfsc.jp/information/detail.php?id=150

photo_Kazuhiro Nishijima
text_ Kazuhiro Nishijima
edit_ MATSURIsta!