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芸能を楽しむ神楽宿の流儀 神楽宿の主 笹山政幸・奈奈子夫妻

 岩手県釜石市の箱崎半島白浜で、神楽衆を受け入れる神楽宿をしている笹山政幸さん。
東日本大震災で自らも被災し、津波にのまれながらも助かったという笹山さんは、神楽宿の存続のために奔走。神楽宿の維持と復興への想いを胸に、神楽宿文化を伝える新しい試みにも取り組んでいる。2013年の2月に開催された「奈奈子祭」、7月に開催された「奈奈子祭 ~夏の陣~」がそれだ。

 鵜鳥神楽を神楽宿で上演するように、様々な芸能を民家で上演するというこの企画。東日本大震災で被害を受けた民俗芸能の復興支援を精力的に行なっている追手門学院大学の橋本裕之教授も加わり、新しい民俗芸能祭のあり方や可能性を探っている。ちなみに「奈奈子」とは笹山さんの奥さんの名前。奈奈子さんも笹山さんと同じく、非常に行動力のある個性的な方だ。

 さて、地域の人びとが神楽を見に来るために集まる神楽宿とは、いったいどのような空間なのか。神楽宿の雰囲気づくりについて聞いてみた。

「一番大事なのは、地元の人をより多く集めること。人が集まれば神楽さんも踊りに力が入りますよね。宿に人が集まってくれれば、その目的は何でもいいんですよ。神楽を見たいと来る人はもちろんですけど、餅を拾いに来る人、お酒を飲みにくる人、近所の人とおしゃべりに来る人、とにかく目的は何でもいいから人を集めてやれば、それだけ盛り上がるんです。宿として一番力を入れるのはそこですね」(笹山さん)

観客も神楽のうち

 それぞれ集まった目的はちがっても、まず人が集まることがいい神楽宿の条件だと、笹山さんは言う。地域の知り合いが集まれば自然と和気あいあいとしてくるだろう。このあたりが、ホールでの公演とは異なるところだ。しかし、無条件で誰も彼も呼べばいいということでもない。“外部からくる観客”をどのように扱うかという問題もあるようで……。

「あまり外部のツアー客などを入れすぎても、よくないと思っているんです。今の悩みどころはここですね。神楽の意味や神楽宿の役割をわかってくださる方ならばいいのですが、それがわからない人たちによって雰囲気が壊されてしまう場合があるものですから」(笹山さん)

 わきあいあいと神楽を観ているにもかかわらず、身を乗り出して写真を撮りまくるアマチュアカメラマンや、神楽とは関係ない宴会をはじめてしまう人びとが出てくるのではないかと笹山さんは心配している。

 とはいえ、鵜鳥神楽が巡業にくる2年に1度を心待ちにしている人びとがひしめいている空間、それが神楽宿。ただ沈黙して神楽を観るのではなく、待ちに待ったハレの日の陽気に気が乗れば、野次は飛び出すわ、いっしょに踊り出すわのお祭り騒ぎ。またそれを観たまわりの親戚がどっと笑い、囃し立てながらゆるりと神楽は進んでいく。時にはおばちゃんたちの黄色い歓声があがり、酔っぱらいの注文に応えながら夜神楽の夜は更けていくのだ。

 外の人間として祭りを見物に行くときには、地元の人の楽しみ方で祭りを楽しむようにするといいだろう。粛々と見守る際には粛々と、気のいいおじさんがお酒をついでくれたらぐいと飲んで景気をつけて。わいわいと舞手を囃子たてる人たちがいれば、そこに加わってみたりすればいい。

 神楽や芸能をどんな態度で観ればいいのか。それは書物や映像、あるいは舞台での公演とは違って、なかなかわかるものではないだろう。実際に祭りの空間のなかに飛び込んで、地元の人たちと一緒の目線で楽しめば、そこには今までみたことのない光景が広がってくるに違いない。

釜石市箱崎半島の旅館、宝来館にて「奈奈子祭~夏の陣~」が開催された。宝来館は黒森神楽の神楽宿でもある

釜石市箱崎半島の旅館、宝来館にて「奈奈子祭~夏の陣~」が開催された。宝来館は黒森神楽の神楽宿でもある

「奈奈子祭~夏の陣~」にて岩手県山田町愛宕青年会の八木節。独自に進化・伝承される八木節に観客も思わず体が動き出す。

「奈奈子祭~夏の陣~」にて岩手県山田町愛宕青年会の八木節。独自に進化・伝承される八木節に観客も思わず体が動き出す。

右から笹山政幸さん、奈奈子さん、橋本裕之先生。奈奈子祭が終わって見送り。この3人が神楽宿の新たな可能性を模索する

右から笹山政幸さん、奈奈子さん、橋本裕之先生。奈奈子祭が終わって見送り。この3人が神楽宿の新たな可能性を模索する

プロフィール

「奈奈子祭~夏の陣~」文化芸術による復興推進コンソーシアム

http://bgfsc.jp/information/detail.php?id=150

photo_Kazuhiro Nishijima
text_ Kazuhiro Nishijima
edit_ MATSURIsta!