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常識を覆す異色おりがみの世界 おりがみ作家・研究家 山口真 前編

おりがみという遊びに、どんなイメージをお持ちだろうか?

おとなしい、きれい、こまごましてる。
文科系、すぐできる、女の子の遊び----。

そんな常識をほとんどすべて覆す異色の頑固親父が、おりがみ界にはいる。
おりがみ作家にして研究家の山口真さんだ。

山口さんは、日本を代表するおりがみ作家であると同時に、1990年に「折紙探偵団」なる研究会を仲間と立ち上げ、1999年に同団体を「日本折紙学会」に改め、事務局長として運営にかかわっている。子ども向けのやさしいおりがみ本から、アート色の強いコンプレックスおりがみ分野の編集まで、幅広く携わる。

「なりゆきだったんだよ、おりがみ始めたの。若いころはヨーロッパを放浪したりして、いわゆるヒッピーみたいな生活をしていてね。同じくらいの時に写真もやっていて、そのつながりで日本折紙協会の方から”おりがみやったら?”と言われて何気なく触ってみたのが始まりだった。

この世界に首を突っ込む前は、“おりがみなんか大の大人のやるもんじゃねえ”なんてどこかで思っていた節がある。好きでもなんでもなかったけれど、これで生活しようって思い込んだら一直線。今ではこの道40年以上、おりがみはうすの開設からは24年にもなったよ。おりがみの新作を考えて本を出したり、教室を開催したりさ。おりがみって一見、女の子っぽいとか思われがちだけど、私たちが追求してきたのはかなりマニアックな世界もある。おりがみのイメージを常に崩してきたかもしれないね。

“おりがみはうす”というのはギャラリーを兼ねた私の個人事務所で、日本折紙学会もここを拠点として活動している。ここでスタッフをかかえて、年に何冊もおりがみの本を出してるんだから、仕事としてはとても広がったなと実感するよ。」(山口さん)

フィギュアのような“コンプレックスおりがみ”

ギャラリーには、立体的で複雑な折りの作品が並ぶ。山口さんの発言にもあった“コンプレックスおりがみ”だ。それは、一般的なおりがみのイメージとはほど遠く、複雑な折りを重ねに重ねて、信じられないほどの立体感ある作品を生み出していく分野。コブラに人物像、大型犬ほどもあるユニコーン……。どれも紙だとにわかには信じがたい形状をしている。

「コンプレックスおりがみの手順を説明しようと思ったら、平気で100コマ超えるぐらい、普通のものより折りがとにかく複雑。この人物像なんてほら、一体どうやって折るのか、そもそも再現できるのか、初めて見る人間には見当もつかないでしょ? 細かく折るから、人物とか昆虫とかが、より本物に近い形に見える。職人芸の域だね。

作家と呼ばれる人たちの頭には、折りのプログラムがたたき込まれていて、新しい作品を創作するとなったら、立体イメージから展開図にしていくんだ。でも、たとえばドレスを着た人間を作ってみようとしたとき、人間の手の5本指を折るならこう、という折り方のセオリーみたいなものはなんとなくあるけれど、ドレスやポージングなどが入り組めば入り組むほど、センスの世界。

それでも、私はこれらの複雑な作品には、アートと呼べるものがまだ少ないと思っている。
今のコンプレックスおりがみの世界では、数学的な方法論の研究が進んでいて、その構成次第でいくらでも複雑でリアルなものが作れてしまう。
極めて理系的な遊びだよ。そこから抜け出したセンスを持つ作家は、まだ数える程しかいないね」(山口さん)

まったく初めての人間にも、手を出せるものだろうか。
勇気を出して聞いてみる。

「折れるかって…? まったく初めての人にはかなり難しいよ。でも折りたいという気持ちが一番大事。難しくても自分が折りたいと思うものが載っている本を買った方がいい。挫折するかもしれないけどね(笑)」(山口さん)

悔しい!と思った次の瞬間。「そんな人にいいんじゃない?」と差し出された本が、『1年中飾れるかわいい折り紙オーナメント』(山口真、ソシム株式会社)だった。

「普通のおりがみの延長で、目新しいオーナメントが作れる。この本で紹介しているのは、もちろんはさみなんかは使わずに、細かな折りで形を出していくもの。おりがみをやっている人たちは、基本的にはさみを入れるのを嫌うもんなんだ。くす玉などの連続したユニークな形の立体が出来上がる。これだって集中しないと折れないから、しょんぼりしたときに集中して折ってみたら、きっと嫌なことが忘れられるぞ。

挑戦するなら、紙選びにはこだわること! 女性は人生で3回、おりがみに出会うんだ。1回目は幼児期に、2回目は自分の子どもに教えるときに。3回目は、子どもが手を離れて時間ができたとき。せっかく巡ってきた3回目で、普通のおりがみ用紙を使っていたらつまらないでしょ。このオーナメントだって、すてきな紙を選んで折れば、個性が出て面白いよ」(山口さん)

コンプレックス作品から子どものおりがみまで幅広い著作を持つ山口さんは、まるでおりがみのソムリエのよう。さりげなく人を見ている彼は、ひょっとしてかなりの人間好きかもしれない。

山口さんの作品は、可愛らしくて繊細なものが多い

山口さんの作品は、可愛らしくて繊細なものが多い

コンプレックスおりがみの作品集をパラパラ。フィギュアのような立体的な作品は1枚紙で折られている

コンプレックスおりがみの作品集をパラパラ。フィギュアのような立体的な作品は1枚紙で折られている

最初はとっつきにくいかもしれないけれど(?)、人柄の温かさとおりがみへの情熱が伝わってくる

最初はとっつきにくいかもしれないけれど(?)、人柄の温かさとおりがみへの情熱が伝わってくる

プロフィール

山口真 やまぐちまこと

おりがみはうす代表、折り紙作家。おりがみに関する書籍などを多数執筆、編集する一方、日本折紙学会の運営に長年携わる。昭和19年、東京生まれの東京育ち。ちょっと気は短いが面倒見が良く、人情に弱い江戸っ子で、国内外のおりがみファンからの人望が厚い。

おりがみはうす http://www.origamihouse.jp/
日本折紙学会 http://origami.gr.jp/

photo_yuji imai
text_ chiharu terashima
edit_miwako matsuzaki