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「日常に小さな革命を起こしたい」 傘の既成概念を壊したアイデアとは プロダクトデザイナー  梶本博司 前編

傘の見た目のデザインはさまざまだが、傘の構造は基本的には同じ......だと思っていないだろうか。プロダクトデザイナー梶本博司さんが、構想数十年をかけて制作した「UnBRELLA(アンブレラ)」は、傘の既成概念をぶち壊す"逆さに開く"というデザイン。

傘を閉じたとき、濡れた面が内側になるため、混んだ場所でも自分も周りも濡れにくい。傘立てがなくても自立するため、ちょっと手を離すときも便利。「UnBRELLA」はテレビやネットで紹介されるとすぐさま話題になり、現在は2~3カ月待ちの状態だという。

"日常に小さな革命を起こす"ことを目指す梶本さんに、発想の源をお聞きした。

「最初にこの傘の構想を思いついたのは、美大生のころ、電車に乗っているときでした。雨で濡れた傘を持っていて、ビビッとアイデアが沸きました。

大学卒業後、企業の社内デザイナーとして12年働いたあと、独立して23年間プロダクトデザインをしています。頭のどこかに傘のことはあって、『このまま作らずに終わるのはいやだな』と、2007年くらいにこの傘に取り掛かろうと思い立ちました。

自分で不恰好ながら傘の試作を作り、アッシュコンセプト(UnBRELLAの販売メーカー)の名児耶社長の元に持ち込んだんですが、反応はいまいち。

その後、大阪で見つけた傘職人に会いに行き、自分のアイデアを説明して試作を作ってくれませんかと頼んだら、はじめは『こんなの傘としてありえないし、第一かっこわるい』と酷評でしたね。でも、何度も頼むうちに『仕事の合間にちょっとだったらやってみるよ』と言ってくれたんです。

こうして納得いく試作を作るまで、4年もかかってしまいました。だいぶ見た目がきれいになった試作を持って、改めてアッシュコンセプトに持ち込んだら、社長は『その熱意がうれしい。損してもいいからやろうか』と言ってくれました」(梶本さん)

「革命の第一歩はこういうもの」 自分の信念が認められた瞬間

自分のアイデアを信じて、取り組み続けてきた梶本さん。その熱意を周りが感じ取り、長い年月をかけて少しずつ歯車が動いてきたという。

商品化が決まった後に行ったモニター調査は、実はよくない結果に。モニターの主婦層からは「こんな傘、かっこ悪くてさせない」というネガティブな反応があがったとか。

「ですが、革命の第一歩とはそういうものだと思うんです。モニターでは不評だったため、いっそのことターゲット層は、UnBRELLAをおもしろいと感じてくれた人のみに振り切ることに。ですので、色も大衆受けは狙わず自分が好きな色だけ、ネイビー、ターコイズ、ライトブルーという青系に絞りました」(梶本さん)

そして2013年、「UnBRELLA」はビッグサイトで行われた「インテリアライフスタイル展」という家具の展示会で絶賛される。ブースには人が集まり、たちまち話題になったそう。

「商品化されることが決まっても、ずっと在庫がはけるかどうか不安でした。展示会で反響があって、予想外の好感触で驚きました。その後の販売数も好調だそうです。こうした、自分のデザインが認められたときがいちばんうれしい瞬間です。

実際にUnBRELLAをさして歩いていると、すれ違った人たちがじっと見てきます。その反応が楽しいですね。これまでの傘と違うので戸惑うかもしれませんが、使ってみればこの便利さに気付いてくれると信じています。UnBRELLAが傘の新しいスタンダードだと言いたいです」(梶本さん)

学生時代のアイデアを実らせ、傘の既成概念をくつがえした梶本さん。革命の第一歩は、実は身近なところに眠っているのかも?――日常にワクワクを与えてくれる、夢のあるエピソードだ。

2014年2月に発売された「UnBRELLA」(9,720円)。現在は予約販売を受付けている

2014年2月に発売された「UnBRELLA」(9,720円)。現在は予約販売を受付けている

「アイデア発想からは35年もかかってしまいましたが、逆開きの傘は今だから認められたんじゃないかと思います」

「アイデア発想からは35年もかかってしまいましたが、逆開きの傘は今だから認められたんじゃないかと思います」

何よりもデザインの仕事が好きだという梶本さん。息抜きは「甘いものを食べることです」という

何よりもデザインの仕事が好きだという梶本さん。息抜きは「甘いものを食べることです」という

プロフィール

梶本博司 かじもとひろし

1955年、兵庫県宝塚市生まれ、大阪育ち。1991年に「カジモトデザインオフィス」設立。2013年 Good Design Award受賞。プロダクトデザインを中心に、幅広くデザイン活動を行う。
http://hiroshi-kajimoto.com/

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