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作家 山口路子 前編

「オードリー・ヘップバーンという生き方」「ココ・シャネルという生き方」「美神(ミューズ)の恋」など、アートや芸術家、そして魅力的な女性たちの生き方を描いた著作を多く持つ作家・山口路子さん。

「私がアートの世界を知るようになって最初に興味を持ったのは、
芸術家たちに作品づくりのインスピレーションを与える"ミューズ"の存在でした。

例えば、ピカソが描いた1人の女性の絵があったとすると、その作品はそこに描かれているマリー・テレーズという女性に彼が出会わなければ、決して生まれなかったものです。

1つの芸術作品にミューズが果たす役割というのは、画家と同じくらい重要なのではないか――そう考えたら面白くなって、芸術家とミューズが二人で為す自己実現をテーマに研究するようになりました。

まず夢中になったのは、カメラマンであるマン・レイとそのミューズ・キキの関係。「美神の恋」にも書きましたが、彼のイマジネーションとキキの官能が呼応しあうことで新たな作品が生まれるという2人のパートナーシップには、女性として感じる部分がたくさんありますね。

私自身も恋愛のない世界では書き続けることはできません。ただ、自分のことも相手のこともすごく分析してしまうので、恋に溺れたくても"溺れられない女"なんですけどね(笑)」

脱稿した瞬間の「生きてる」って感じが最高の贅沢

そんな山口さんがアートの世界に惹き込まれ、また文章を書くことに没頭するようになったのは、意外にも社会人になってからだという。

「私にアートの魅力を教えてくれたのは、大学を出てからすぐに出会った恋人でした。私は卒業後7年間都内の私立高校で世界史を教えていましたが、それまではアートの“あ”の字も、文章の“ぶ”の字も知らなかったんです。

彼の影響で美術館や展示会を巡るようになった私は、ある時、教師という仕事への迷いを抱えながらヨーロッパ旅行に出かけました。帰国後に、現地の歴史や絵画について知りたいという知的好奇心を満たしてくれそうな書籍を探したのですが、分厚い美術の専門書か、さわり程度のガイドブックしか見つけられないことに愕然としましたね。

そこで、アートの背景やエピソードについて面白い話ができれば需要があるのではと思い立ち、25歳の時にアートサロン“時間旅行”を立ち上げてレクチャーを開始。それが今の私につながる出発点かな」

その後、教師を辞めサロン経営に没頭した山口さんは、「君のしゃべっていることは本当に面白いから、そのまま文章にしてみたら?」というまた違う恋人の勧めでエッセイを書くようになる。そして、出版社に持ち込んだその場で雑誌「FRaU」の連載が決定した。

「初めの頃、書くことは本当につらかった。けれど今では、脱稿した時の“生きてる”って感じが、何にも代えがたい贅沢な瞬間だと思っています」

キキを撮ったマン・レイの写真集を手に

キキを撮ったマン・レイの写真集を手に

いつも執筆しているデスクがこちら。顔を上げた壁には、大好きだというワッツの「希望」という絵がかかっている

いつも執筆しているデスクがこちら。顔を上げた壁には、大好きだというワッツの「希望」という絵がかかっている

題材にする女性たちと同じように不思議な魅力を持つ山口さん。時折見せる笑顔がチャーミング

題材にする女性たちと同じように不思議な魅力を持つ山口さん。時折見せる笑顔がチャーミング

プロフィール

山口路子(やまぐちみちこ)

作家。1966年東京生まれ。大学卒業後、世界史の教師を経て、92年にアートサロン「時間旅行」を設立。雑誌「FRaU」で恋愛を軸にアートを語るエッセイを3年間連載し、人気を得る。エッセイ「ココ・シャネルという生き方」「美神の恋」(新人物往来社)、小説「軽井沢夫人」(講談社)、「女神(ミューズ)」(マガジンハウス)など多数。新著「オードリー・ヘップバーンという生き方」(新人物往来社)も発売中。私生活では、中学生になる娘の母でもある。

BLOG:山口路子Worldhttp://anais.cocolog-nifty.com/blog/

photo_nobuyuki sasaki
text_miwako matsuzaki
edit_yu koyanagi