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ちょっと贅沢お作法

こいつァ秋から演技がいいわえ、神奈川地芝居三昧

地元の素人たちが演じる歌舞伎、それが「地芝居」。
さかんに地芝居が行われている神奈川県で、2011年の秋から冬にかけて行われた4団体の主な公演を巡ってみました(秦野市の目久尻歌舞伎だけは観ることができませんでした。残念)。

 神奈川県のそれぞれの地元では、どのような様子で芝居が行われているのでしょうか。一度観てみたいと思い、2011年の秋から冬にかけて行われた4団体の公演をめぐってみました。個性豊かな各団体の芝居の様子と特徴を紹介していきましょう。


1.藤野歌舞伎

 新宿から中央線に乗って一時間ちょっと揺られると藤野という駅に着きます。
藤野町(現在は相模原市に合併)の地芝居が藤野歌舞伎です。

 10月2日に行われた公演は、復活20周年記念ということで特別に大石神社の舞台で行われました。大石神社の舞台は少々変わっていて、参拝者がお参りをする建物である拝殿が、回り舞台
(今回は回りませんでした)とチョボ床(義太夫と三味線の人のための半二階スペース)
を備えた歌舞伎舞台になっています。
大石神社は駅からかなり離れた所にあり、タクシーで向かいました。

 今回演じられたのは、『太功記十段目尼ヶ崎の段』。
主君を討った明智光秀とその家族の悲劇を描いた作品です。
大人に混じって中学生の男の子が演じていたのは、地芝居の花形である
初陣のいくさで深手を負って死んでしまう若武者十次郎とその婚約者初菊。
芝居に熱中している少年がいると嬉しくなります。
受付ではパンフレットとおひねりの投げ方の案内が配られていたためか、
客席からは芝居にあわせて掛け声やおひねりが飛んでいました。


2.大谷歌舞伎

 新宿から小田急小田原線で45分ほどで海老名駅に到着します。駅からバスに10分程度乗ると、大谷という集落があります。当地の地芝居は大谷歌舞伎といって、1990年代に地芝居が各地で復活する前から活動を続けています。大谷歌舞伎の公演は、藤野歌舞伎の翌週の10月9日に、大谷八幡宮という集落の神社で行われました。この公演は、歌舞伎部会、はやし連部会、舞踊部会からなる大谷芸能保存会の公演で、歌舞伎だけでなくお昼から夕方にかけてお囃子や新舞踊がつぎつぎと披露されます。

 歌舞伎は、16時35分から、出演者が全員小学生の子ども歌舞伎『寿曽我富士の曙 対面の場』。18時20分から、大人が出演する『絵本太功記十段目 尼ヶ崎閑居の場』が上演されました。

 子ども歌舞伎はこの年初めての試みで、子どもたちは一年間稽古をしてきたそうです。子どもが出ているというだけで楽しいものですが、大人顔負けの達者な芝居をしていました。『太功記』は日没後にはじまり、舞台に取り付けたフットライトで照らされながら演じられました。都心から電車一本で来られる場所とは思えないほどの雰囲気でした。


3.いずみ歌舞伎

 さらにその翌週、10月15日、16日の二日は横浜市泉区のいずみ歌舞伎の公演でした。会場は、横浜から相鉄いずみ野線に乗ったところにあるいずみ中央駅の近くにある泉公会堂です。いずみ歌舞伎は県内の地芝居では唯一有料(1300円)です。この年の外題は、『絵本太功記十段目 尼崎閑居の場』、『舞踊 お祭り』、『御存 鈴ヶ森』の三つでした。

 ここまで読んだ方はお気づきかもしれませんが、僕は三週間連続で『太功記十段目(通称:太十)』を観たことになります。同じ外題が重なったのは偶然ですが、『太十』は今も昔も定番中の定番の演目で、全国各地の地芝居で見ることができます。いつでもどこでも話の筋はほとんど同じで、光秀が秀吉に勝つというようなどんでん返しは絶対にありません。同じ筋であっても、「ここの加藤清正は勇ましくてかっこいいなあ」とか、「ここの初菊はかわいいなあ」などと楽しむことができます。

 いずみ歌舞伎の特徴は、地芝居であまり取り上げられない外題にも挑戦するところで、今回は侠客の幡随院長兵衛が出てくる『鈴ヶ森』が上演されました。腕や脚が刀で斬られて飛んでいくユーモラスな立ち回りに客席は盛り上がっていました。


4.入谷歌舞伎

 年末12月4日に、座間市で入谷歌舞伎の公演が開かれました。会場はハーモニーホール座間の大ホール。このホールはコンサートやオペラにも使用可能という、立派なものです。地芝居というと野外で行われるものばかりかと思われがちですが、最近はホールでの公演も増えてきました。

 この年の外題は、『御祝儀三番叟』、『弁天娘女男白浪「浜松屋見世先之場」「稲瀬川勢揃い之場」』、『絵本太功記「尼ヶ崎閑居之場」』の四つでした。

 『三番叟』は、舞台を清めるための舞踊です。大歌舞伎でも地芝居でもよく演じらます。『三番叟』といっても様々なバリエーションがありますが、入谷歌舞伎では大人が一人で舞うスタイルでした。

 「浜松屋」は、入谷歌舞伎としては初めて挑戦する世話物とのこと。この演目は埼玉県秩父歌舞伎会の坂東彦五郎さんが指導されたそうです。新しい演目への挑戦が、入谷歌舞伎の特徴かもしれません。関東地芝居ネットワークの力も感じました。

「稲瀬川」は地元小学生が出演した子ども歌舞伎で、今回出演したのは全員女の子でした。地芝居に限らず、各地の民俗芸能を見聞していると、女の子が担い手として活躍している場面によく遭遇します。「地芝居女子」が元気なのはいいのですが、子ども歌舞伎出身の僕としては「地芝居野郎」も増えてほしいなとも思います。

 入谷歌舞伎でも、歌舞伎だけではなく、新舞踊やお囃子の特別出演がありました。そして、最後に定番の『太功記』。なんと、本当に偶然なのですが、2011年はすべての団体がこの演目を手がけていたのです。いつもどおり、光秀と秀吉が天王山での決戦を約束して別れて幕となりました。
こうして、僕の2011年地芝居めぐりも幕を閉じたのでした。


■地芝居へ出かけよう

今回は比較的交通の便がよい神奈川県の地芝居をご紹介しました。
今年も、神奈川では10月から11月にかけて公演が行われる予定で、地芝居の秋はもうすぐです。

地芝居の公演やイベントのスケジュールは、毎月末に翌月の情報が地芝居ポータル(http://www.jishibaiportal.com/)にアップされますので、是非ご参照ください。秋は毎週どこかで地芝居があり、東へ西へと大移動する地芝居マニアの方もいるそうですが、興味をひかれたら気軽に近場の地芝居を見物してみてはいかがでしょうか。

Text Taro Tachino
Photo Taro Tachino
Edit MATSURIsta!