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潜入!奄美の豊年行事クガツクンチ~今井編

奄美諸島で行われる祭りには、今でも集落の祭祀を執り行うノロやユタの存在が欠かせません。彼ら、彼女らはいったいどのように、神聖な儀式を行うのでしょうか。

 「ノロ」や「ユタ」と呼ばれる人々のことをご存知でしょうかノロは奄美大島では「ノロ神様」と呼ばれます。
琉球王府から辞令書を受けた女性(権力者の親族)で、集落の祭祀を執り行う神聖な存在です。
ノロの役目はその家系の女性に受け継がれ、親ノロ、子ノロは別の家系です。
親ノロが死去しても子ノロが親ノロになることはなく、
親ノロの家系から新たな親ノロが選ばれるといいます。

 今では女性が島外に嫁いだり、ノロの後継を拒むこともあり、
奄美に現存するノロはわずかしかいません。
名音集落でも、鹿児島市からわざわざ豊年祭の時だけ集落に戻ってきます。
それに伴い、ノロによる祭祀も今やほとんどの地域で途絶えてしまっています。

 ユタはいわゆる「シャーマン」であり、占いや病気平癒、呪(まじな)いを行います。
ノロが政(まつりごと)に深い関わりがある一方、ユタはあくまで民間的な存在です。

 ユタは神様に選ばれた人であり、「カミダーリ(神懸かり)」を経て
ユタに目覚めるとされます。
ちなみにカミダーリは神様が起こすもので、選ばれた人はその神様を祀らない限り
(つまりはユタにならない限り)、それに苦しめられるといいます。
決まった家系の女性しかなれないノロとは異なり、ユタは出身、性別関係ありません。

■今井大権現祭、白装束のユタが祈る

 奄美大島北部に位置する龍郷町安木屋場では、クガツクンチの午前7時頃、
ユタの神事である「今井大権現祭」が行われました。
同祭は、同神社神主で親ユタの阿世知照信さん(84)=奄美市名瀬在住=が
執り行います。

 神事では、海の神「陰月竜宮海汝神=いんげつりゅうぐううなりがみ=」を海で迎え、今井大権現の社がある山頂で天の神「太陽皇男神=あまてらすおがみ=」と召し合わせます。ただ阿世知さんが高齢ということもあり、ここ3年は神社にはのぼらず、奄美市名瀬の阿世知さん宅で神事が行われています。この日は親ユタの阿世知さんと、男女十数人のユタが参加しました。ユタのうち2人が東京、5人が鹿児島県指宿市から来ているといいます。

 白装束姿のユタらは海岸に降りると満ち潮を汲み、海水に浸したススキで頭や肩を7回祓って身を清めます。近くの岩の上に据えられた祭壇には、陰月竜宮海汝神が姿を変えて船を導いたとされる2羽の白い鳥の像、鏡、刀、満ち潮を汲んだ海水入りの瓶、酒(黒糖焼酎)、団子、餅が備えられました。

 神事では、海に向かってユタらが一列に並び、阿世知さんがチヂンを叩きながら海の神を迎える祝詞を唱えると、それに合わせてユタらがススキを揺らめかせます。続いて海に面した岩に登り、四方に向かってススキや供え物を掲げて、男女2神に無病息災と子孫繁栄を祈りました。

 阿世知さんと今井権現の関係ですが、子供の頃に今井権現で神の姿を幻視し、19歳の時は高熱にうなされるなか、今井権現で鏡を掘り出しました。若い頃は商売や漁業に従事していたが、41歳で大病をし、以来ユタとなって今井権現を拝むようになったといいます。

 そもそもユタの神事は表立って行われることはなく、地元紙に取り上げられるのも「今井大権現祭」が唯一と言っていいと思います。よく「台風の前に白装束の人が海岸にいた」とは聞くものの、実際にお目にかかれるものではありません。なお、占いについては阿世知さんによると奄美市内だけで200人のユタがいるとのことです。

 今回は2つの趣の異なったクガツクンチ行事を紹介しました。この他にも、奄美にはたくさんの行事、風習、文化が残り、行政では太宰府市の文化遺産に倣った「奄美遺産」の取り組みも進んでいます。

Photo Tsukasa Ogata
Text Tstukasa Ogata
Edit MATSURIsta!