平日のちょっと贅沢なライフスタイルマガジン Daily Premium Calendar

ちょっと贅沢お作法

楽器としての太鼓の話 鼓は天下のまわりもの  シルクロードを越えてきた鼓 大鼓、小鼓が奏でる音とは

「よぉー、ポン」というおなじみのかけ声で表現される鼓(つづみ)。その鼓には、まるで特徴の違う「大鼓」「小鼓」という種類があります。そんな鼓とゆかりの深い民俗芸能「万歳」のお話。

 今回は、重要な太鼓の一つ「鼓(つづみ)」を紹介したいと思います。
 肩に担いで叩くタイプの鼓は「小鼓(こつづみ)」と呼ばれます。能などの舞台で使われる「ぽんぽん」と打つものですね。

能では、もうひとつ、「大鼓(おおつづみ)」とか「大皷(おおかわ)」と呼ばれるものも使われています。こちらは、小鼓に比べて緊張感のある、「カチャーン」というような甲高く緊張した音が出るもの。見た目は同じようですが、両者はまったく別な音を奏でます。

 それもそのはず、皮が湿っているほうが鳴りやすいのが小鼓で、演奏前に火であぶって乾かすこともあるほど“乾燥しているほうが良く鳴る”といわれるのが大鼓。そもそも皮の性質が違うのです。小鼓も大鼓もどちらも馬の皮を使っているのですが、ここまで音が変わるというのは不思議なものですね。先人の音の工夫の面白さをここでも感じます。

 音や、皮の手入れ方法の違い以外にも、能楽の大小の鼓の見分け方は、いろいろあります。

(1) 小鼓の皮は白。鉄枠などの縁には漆が塗られているため黒色です。大鼓は、火で焙ることもあるためか、茶色い皮のままになっています。

(2) 小鼓は右肩に楽器を載せて手で打つのに対し、大鼓は左わきに抱えるように持ち、手(和紙で作られた指サックをはめている)で打ちます。

(3) 小鼓は、皮を締める紐「調べ緒(しらべお)」を手の握り具合でゆるさを調節でき、音高を変えることができます。大鼓は、きつく「調べ緒」を張るため、音高の調節は難しく、小鼓に比べて大鼓のほうが長い「調べ緒」を垂らしていることが多いです。

(4) 小鼓の胴は、胴の中央部は緩やかに膨らむだけですが、大鼓のほうには、中央部に竹の節のように盛り上がった部分があります。
 
 以上が主な見分けるポイントですが、民俗芸能の場合は、使用方法が能楽とは違うこともあるため、分類が難しい場合があります。地元の人は、単に「鼓」とだけ呼んでいて、それが大鼓なのか、小鼓なのか知らないで使っている場合もあります。お祭りに行かれたら、実際の楽器をよく見てください。それが「大鼓」か「小鼓」かを見分けられるようになると、より祭りが楽しくなるでしょう。また、能楽での基本的な使い方を知っていると、民俗芸能の多彩な使われ方とも比較できるので、さらに奥深く見ることができます。

■「鼓」の起源

 「鼓」の起源は、はるかシルクロードの世界へとつながっています。今日の日本の「鼓」のように中央がくびれた「砂時計型」のタイプの太鼓は、インドが発祥だといわれています。その後中国にも伝わり、敦煌莫高窟(とんこうばっこうくつ)の壁画にも、唐代の楽器として描かれているそう。これを見ると、今は使われなくなった、「細腰鼓(ほそようこ)」や、「二鼓(にこ)」など、多彩な鼓があったことがわかります。現在の日本の大小の鼓は、実はこれら多彩な鼓の一部がたまたま日本に残り、発展したものなのです。

 そもそも「つづみ」という言葉自体が、インド起源の「dundubhi」にあるという説や、中国の「都曇鼓(つどんこ)」とする説などもあり、はっきりしていません。いずれも、起源は、インドか中国の太鼓の名前から来ているようです。それぞれの太鼓が、どういう形でどんな演奏をされていたのかに想いを馳せるのも興味深いものですね。

 鼓のような「手で打つ」太鼓は、世界中にたくさんあるにも関わらず、日本ではこの大小の鼓しかないというのは不思議な話です。中でも、小鼓は肩に載せて演奏するという、世界的にも例がないもの。そういった変わったものが、今では日本の伝統的と見られている「能楽」のお囃子に含まれているというのは、興味深い点だと思います。


■「鼓」は「太鼓」?

 中央がくびれていれば「鼓」と呼ばれると思われがちですが、日本の古代ではそもそも「つづみ」という言葉自体が、今でいう「太鼓」の意味合いで使われていました。「ふえ」が日本人にとって吹奏楽器全般をさしたように、「つづみ」は太鼓全般をさしていた時期があったのです。『日本書紀』にある、花の窟(はなのいわや)神社に関する箇所には、「一書に曰く」という形で「鼓吹幡旗(つづみふえはた)を用て歌い舞いて祭る」とあり、この場合の「つづみ」は今日でいう太鼓の類をさしたと考えらえています。どういう太鼓を演奏したのかは、具体的に書かれていないのが残念です。
 いずれにしても、かつて太鼓全般を意味していた「鼓」が、時代を経て能楽や雅楽で使う「つづみ」だけに言葉が使われるようになったようです。

■「民俗芸能」で見られる「鼓」の例

 さて、いよいよ、民俗芸能の場における「鼓」の使用例について紹介していきましょう。まずは、僕の地元、愛知県の誇る「尾張万歳(おわりまんざい)」と「三河万歳」です。

 両者に細かい違いはありますが、共通しているのは、正月にめでたい言葉で祝福しながら(これを「ことほぐ」といいます)家々を回り、玄関先や、座敷で芸能を見せるというもの。扇を持った太夫(たゆう)と小鼓を持った才蔵(さいぞう)と呼ばれる二人組が掛け合いをしながら、家ごとに祝福してまわります。

 名古屋に住む年配の人たちに伺った話では、万歳の芸は普通玄関先で行われるのですが、その家の人が祝儀をはずむと、普段より長くいろいろなバリエーションをやってくれたそうです。万歳の二人組が、正月の門付けに各家にやって来るというのは、こういうご年配の方々にとって、鼓の音とともに懐かしい思い出になっているようです。

 名古屋では、時代の流れとともに、万歳を見ることもめっきり少なくなってしまいました。そんな中、今でも尾張万歳は愛知県の知多市に伝わっています。尾張万歳を一度拝見したことがありますが、なかなか年季の入ったおじいさん二人組で、歌いながらテンポよく言葉を紡いでいく様子は、まるで日本版のラップだと感心しました。その合間に鼓をポンポンと打って拍子をとる感じは、いかにも正月の芸能らしいところでもあります。

 万歳についての詳しい話は、昨年亡くなられた俳優の小沢昭一さんの「日本の放浪芸」シリーズ(CD)がおすすめです。自分でも実際に万歳の門付けをやってしまうのが小沢さん流。その感想なども含まれていますので、初めて万歳にふれる方でも楽しく聴くことができるでしょう。

Photo Kazuhiro Nishijima
Text Yu Nimi
Edit MATSURIsta!