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ちょっと贅沢お作法

ところで、タイポグラフィって何でしょう?

「タイポグラフィ」というテーマでの連載も10回目となりましたが、
そもそも、「typography タイポグラフィ」とは何でしょう?
「タイポグラフィ」というコトバを耳にするのもはじめてというかたも
すくなくないとは思いますが、もし、すでにご存知のかたでも、
文字を使ったデザインであれば何でもタイポグラフィであると
誤解されているかもしれません。

「typography」を英語の辞書で引いてみると、
「活版印刷術」と記されています。
そう、タイポグラフィとはもともと活版印刷術そのもののことなのです。

typographyというコトバは、
「type 活字、型」と「graphy 記述(法)」から成り立っています。
すなわち、活字組版をもちいた活版印刷術による
紙面設計法や書籍形成法を意味します。

そのため、文字を使ったデザインであれば何でも
タイポグラフィであるというわけではなく、
読みやすい(読んだ内容が理解しやすいように)
こころくばりをされた、活字組版術や書籍形成術が
ほんらいの意味でのタイポグラフィの役割なのです。

そのためには、読書の邪魔をしない、書体や組版が求められます。
本の内容よりも、書体の奇抜さや、組版の異様さが目立って
読書の妨げとなってしまうと困るからです。

日本では、美術学校のデザイン分野のひとつとして
タイポグラフィが、わずかにあつかわれている場合がほとんどですが
海外では、哲学分野のテーマとしてとらえられる場合もあります。
タイポグラフィを突き詰めると、「紙面という空間における、ものの有りさま」
という、きわめて哲学的なテーマに到達するからです。

今月は、タイポグラフィにまつわる、さまざまなおはなしを
この場で連載してきましたが、「文字」に関するおはなしだけでなく、
地理・歴史・図像・言語・文学・人物・料理など、多岐にわたり
一見、タイポグラフィとは無関係なおはなしなのでは……
と思われたかたもいらっしゃるかもしれません。

しかし、これらはすべて、タイポグラフィを学ぶための
たいせつな要素なのです。
なぜならば、タイポグラフィとは
「知」と「技」と「美」の総合技芸であるからです。

たとえば、書体の選択ひとつにしても、
その書体の誕生した背景などの知識や、
その書体の特性を活かした組版を実現するための技術、
そして、ビジュアル・コミュニケーションの一手段であるタイポグラフィを
よりよい形で表現するための美的センスが必要となります。

もちろん、後世のひとが過去の産物を、
また、購入者が対価を支払ってみずから手に入れたものを、
どのように使おうと自由であり、
「かならずこうしなければならない」「こうすべきである」という
決まりはありません。

時代劇のなかで、飛行機が飛ぼうと、
携帯電話が登場しようと、高層ビルが建っていようと、
パラレルワールドのおはなしとして成立することもあるでしょうし、
かしこまったパーティに破れたジーンズで登場しても、
犯罪になるというわけではありません。

同じように、後世のひとが、むかしの書体の
設計意図や誕生の背景を知ることなく
好きなように選択して、自由に組版や変形を施すことが
いけないというわけではありません。

しかし、ただ単に知らないで使用しているよりも、
知っているうえでの選択やチャレンジであったり、
TPOにあわせて選べる知識や技量を持ちあわせているほうが
好ましいということは、おわかりのことと思います。

よりよきタイポグラフィのためには、
「知」と「技」と「美」をバランスよく習得することが大切であり、
それは一朝一夕で身につくものではありません。
そしてまた、タイポグラフィには、ひとつの決まった答え(正解)が
あるわけではないのです。

そこが、何世紀にもわたって、タイポグラファを苦悩させてきた
悩みの種であり、試行錯誤のたまものでもあり、だからこそ、
タイポグラフィがおもしろい、ゆえんでもあるのです。

また、デジタル・メディアが発展した現代においても、いまだ
「活版印刷によって印刷された本のほうが読みやすい」
(本の内容が頭の中で理解しやすい)という声が
すくなからず聞かれます。

それは、アナログ・メディアである活版印刷術の優れた点が、
いまだに完全にデジタル・メディアに移行反映されていない
というあらわれであるとも考えられます。

デジタル・メディアでのよりよき文字組版やアウトプットのためにも、
活版印刷をいつでも検証できる環境を、
わずかばかりでも未来に残して、
アナログとデジタルの双方向からのアプローチをおこなうことが
たいせつです。

そう、人間が生き物という有機的な存在であるかぎり、
究極のデジタルは、究極のアナログをめざすのです。

知的生命体である人間が、その叡智を伝達するために、
よりよきタイポグラフィを求める挑戦はつづきます。


活字を使った永遠のパズル――タイポグラフィ。
あなたも、その魅力にはまってみませんか?

photo_Masahiko Kimura
text_ROBUNDO Jiro Katashio & Kaori Oishi