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デイプレ手みやげ

「豚」+「柿」+「ミカン」=「諸事大吉」 笑う門には福来たる? ユーモアあふれる吉祥文

海外旅行に出かけると、「どうして、これが喜ばれるの?」と
不可思議に感じる奇妙な縁起物に遭遇することがあります。
国や民族、風習によって、その由来はさまざま。
前回の「文」のおはなしにつづき、今回は
中国・台湾の「吉祥文」についてのおはなしです。

ハロウィンのカボチャの置物と勘違いされることもしばしばですが、
この置物はジャック・ランタンではありません。
中国・台湾のひとが見たら「なんてメデタイ!」と喜ぶ逸品なのです。

台湾では、種類豊富な豚の置物が売られているのをよく目にします。
その愛くるしい容姿もさることながら、
多産で豊満な豚は、金運・財運アップや繁栄の象徴として、
中国・台湾だけでなく、西洋諸国でも珍重されるラッキーアイテムなのです。

【豚≒猪】
中国・台湾では、豚は「猪」と表されます。
その猪(豚)の「蹄(ひづめ)」の中国語の発音は【ti2】とされ、
中国の故事成語である「雁塔題名」や「金榜題名」に使われる
「題」の発音も【ti2】であるため、これらは同音同声の関係となります。

「雁塔題名(がんとうだいめい)」とは、唐の時代に、
科挙(隋代から清代まで行なわれた上級官僚登用試験)のなかでも
もっとも難関とされた進士試験の合格者が、
西遊記で知られる玄奘三蔵(げんじょうさんぞう 602―664)ゆかりの仏塔、
大雁塔(だいがんとう)の壁に記念の署名をしたことに由来しています。

「金榜題名(きんぼうだいめい)」は、清の時代に、
科挙の最終試験の合格者の名前を掲載した掲示板のことで、
転じて、難しい試験に合格するたとえとされています。

そのため、洒落(シャレ)た関係にある猪(豚)も、
秀才・天才をあらわすこととなり、きわめて名誉なこととされるのです。

【柿】
唐の詩人、段成式(だん せいしき 803頃―863頃)は、
その随筆集『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』のなかで
柿には七つの徳があると記しています。

   1.壽(寿)がある
   2.多陰→夏に葉が茂り日陰を提供する
   3.鳥が巣をかけない
   4.蟲(虫)が寄りつかない 
   5.秋の霜に負けない
   6.嘉実(≒縁起のよい果物)
   7.落葉肥大→落ち葉が大量で、よい肥料となる

このように柿とはもともと、雅(みやび)であり、俗でもありますが、
まことに賞賛すべき果物であるとされます。

また、中国語の発音では、「柿」【Shih4】と「事」【shih4】は同音同声になります。
したがって、柿がふたつ並ぶと「柿 柿」となり、
多くの物事「事事≒諸事・百事・万事」を表します。

さらに、「柿・事」【shih4】と「獅」【shih2】とは同音異声の関係であり、
「柿」は「百獣の王たる獅子」をも寓意し、すなわち
「諸事如意≒すべてが意のごとくになる」へとつながるのです。

【ミカン→橘】
中国・台湾では、ミカン、ダイダイなどの柑橘類を、「橘」と表します。
大きな橘である「大橘」【ta4 chu2】と、「大吉」【ta4 chi2】は音が相似しています。
そのため、大きなミカン→大橘は、幸福をもたらす大吉に通じ、吉祥となるのです。

すなわち、【豚】+【柿】+【ミカン】の組み合わせは、
「開運臻寶(しんぽう) 諸事大吉」となり、
「諸事に大吉をもたらし、諸事皆円満」へと導く、最強のラッキーアイテム。
この豚さんのように、ニコニコ顔になること請け合いなのです。

翡翠製の白菜の宝物(台湾故宮博物院蔵)を模した土産物。「白菜」は「百菜(長寿)」「百財」を招く縁起物とされる。

翡翠製の白菜の宝物(台湾故宮博物院蔵)を模した土産物。「白菜」は「百菜(長寿)」「百財」を招く縁起物とされる。

日本や西洋では不吉とされる蝙蝠(コウモリ)も、中国・台湾では幸福を招く縁起物とされる。

日本や西洋では不吉とされる蝙蝠(コウモリ)も、中国・台湾では幸福を招く縁起物とされる。

Item data

商品名:
「諸事大吉」
販売元:
台湾の雑貨店、土産物店

プロフィール

片塩二朗(かたしお じろう)

片塩二朗(かたしお じろう)

株式会社 朗文堂 代表。長野県 飯山市 出身。幼少のころより、文字活字に人並みならぬ興味をおぼえ、こんにちに到る。
大日本印刷株式会社「秀英体プロジェクト」の監修をはじめ、おおくの書体や組版システム開発の監修、印刷史の研究・出版に携わる。著書に『活字に憑かれた男たち』『ふたりのチヒョルト』『富二、奔る』『秀英体研究』他。
【朗文堂】http://www.ops.dti.ne.jp/~robundo/
【片塩二朗blog 花筏】http://www.robundo.com/robundo/column/

プロフィール

大石 薫(おおいし かおり)

大石 薫(おおいし かおり)

東京農業大学 農学部卒 遺伝育種学専攻。同校にて学芸員資格と図書館司書資格を取得。
凸版印刷株式会社「印刷博物館」の設立準備に携わり、印刷工房「印刷の家」に勤務。
2006年、片塩二朗とともに、朗文堂において「アダナ・プレス倶楽部」を設立。活版印刷の今日的な意義と活用の提案および普及活動をおこなう。著書に『Viva!! カッパン♥』。
【アダナ・プレス倶楽部】http://www.robundo.com/

photo_Kaori Oishi
text_ROBUNDO Jiro Katashio & Kaori Oishi